電球
ひとつの電球が灯る六畳ほどの部屋。そこで俺は目を覚ました。しかしその部屋に俺は見覚えがない。拉致かと思い身を構えるが、周りに人の気配はない。それに、その部屋には扉や窓が無かった。そこは完全に密室というべき部屋だった。
この部屋の情報を得て、少しでも安心しようと部屋を調べるが、何もない部屋から情報を得ることはできなかった。何もない情報が、ただ俺の不安や恐怖を煽る。
数時間は経っただろうか。いや、もしかしたら数分かもしれない。一瞬かもしれない。俺の体内時計はとっくに壊れていた。でもその長く感じた時間のお陰で多少の冷静を取り戻した。
座り続けることに疲労を感じてきた俺は寝転がった。これからどうしようか。ご飯は、排便は、と色々考えている内に、多分多くの時間が経っていく。
俺は、仰向けの姿勢を崩し、横を向いた。
「ッ・・・!」
心臓が止まるかと思うような驚きに襲われた。目の先には小さな女の子が笑顔で立っていた。
沈黙。お互い目を離さない。ふと、俺はその女の子が誰かに似ていると気がついた。でもそれが誰なのか、思い出せない。
必死に頭の中で記憶を捜索していると、突然、俺の頭の中に公園が思い浮かんだ。
そこでは女の子と、男の子が遊んでいる。滑り台、ブランコ、鉄棒、様々な遊具で楽しんでいる。
二人が砂場へと駆け出したとき、男の子が転んでしまった。泣きだす男の子。それを見た俺は、思い出した。男の子は、昔の俺、だと。そして女の子は昔よく遊んでいた子だと。
俺は目の前にいる女の子に目を移す。
「・・・みっちゃん?」
尋ねるように女の子に言う。
すると女の子は泣きだし、
「・・・さようなら。」
と、かすれるような声で言った。
俺は混乱する。さようなら?どういうことだ。それに何故泣いている。
考えていると、女の子は消えていった。まるで映像がフェードアウトするような感じで。俺はしばらく言葉を失っていた。
そうしていると、目の前に高校生くらいの男子が現れた。その男子も笑っている。こいつのことはちゃんと覚えている。俺が高校生のときの親友。たくさん喧嘩して仲直りして、楽しく遊んで会話した親友だった。しかし社会人になってからは全く会っていなかった。しばらく会っていない友達に、俺は今妙な部屋にいることも忘れて話しかけた。
「久しぶりじゃねぇか!元気だったか?」
「・・・」
返事はない。ただ笑っている。
「どうした?」
「・・・」
ただ黙っている。
「おい、聞いてるのか?」
「・・・」
無視?いやこいつに限ってそんなことはないはずだ。
「どうしたんだよ!彰人!」
そう叫ぶと、男子の目に涙が溜まっていった。
でも笑顔は崩さない。
「・・・本当にどうしたんだ?」
こいつが泣くなんてことは無かった。痛くても悪口を言われても絶対泣かないやつだった。
返事を待っていると、そいつは
「さいなら!」
と言い、消えていった。
さっきの女の子といい、彰人といい、いったいなんなんだ。冷静を保とうとするがさすがにこの状況の中では難しい。頭を抱えていると今度はスーツ姿の男が現れた。
「なんなんだ一体・・・!」
現われては消える人物を二人も見てきた俺にとって、この男を人として見ることはできなかった。
その男もやはり笑っている。
「おいなんなんだこれは!」
そう怒鳴り俺の同僚であるその男、倉崎の肩に手を置こうとすると、俺の手は倉崎の体内を通り抜けた。
「・・・ッ!」
幽霊?俺は幽霊と一緒にいるのか?
今まで幽霊など信じたことの無かった俺も、この状況下では信じざるを得なかった。
「これは一体なんなんだよ・・・何がどうなっているんだよ・・・」
幽霊だと思いつつもこの部屋には倉崎しかいない。すがるような思いで倉崎に尋ねた。
「・・・」
しかし倉崎は笑顔のままそこに立っている。
「チっ!どうせまたお前も消えるんだろ!俺は、俺はどうしたらいいんだよ・・・」
「・・・」
苛立ちが頂点に達する。
「くそっ!倉崎ィ!返事しろよ!・・・してくれよぉ・・・」
悲痛で溢れた声を絞り叫んだ。
ふと、倉崎は顔を伏せ、そして、
「・・・じゃあな」
そう言い残し倉崎も消えていった。
自分の知り合いが現れては消え、を何回繰り返しただろうか。繰り返していくうちに、俺も泣きそうになってきた。
「あばよ」
「さよなら」
「バイバイ」
幾度となく別れを経験した俺は壊れていった。
「ちくしょう・・・ちくしょう・・!」
目の前に人物が現れる。
「今度は・・・今度は誰なんだよォ!あァ?!」
顔を上げるとそこには3人の人物が立っていた。
「・・・え」
兄、母親、父親・・・俺の家族だった。
「・・・」
三人とも笑顔で何も言わず立っている。
「なんで・・・なんでだよォ・・・なんで何も言ってくれないんだ・・・」
無駄だと知りつつも話しかける。
「おい耕毅!お前何で黙ってるんだよ!」
涙を浮かべはじめた耕毅の姿が消えていく。
「・・・またな」
「くそっ・・・」
俺は思わず悪態をつく。
「母さんもそんな黙ってないでさぁ!」
「・・・」
必死に反応を求める。しばらく一方的に言葉を投げかける。しかし母親は消えていかない。どうしてだ。もちろん消えていってほしいと願っているわけではない。でも今までのことからそう思うのは自然だろう。
そして気づいた。
「名前を呼ばれた人が・・・消えていく・・・?」
俺は迷った。今まで通り名前を呼び消えさせるのか。でも母親だ、どうする。としばらく考え込む。
「いや・・・こいつは・・・ただの人形かもしれない。」
そうだ、言葉を返さないのは母親なんかじゃない。
「・・・明美」
母親の名前を呼ぶ。案の定母親は涙を流し、鼻をすすりながら消えていった。
「・・・また、ね。」
「やっぱりか・・・!」
「・・・敏行!」
確信を得た俺は父親の名前も叫ぶ。この世界ごと消えてくれ!頼むから・・・
「・・・」
だが父さんは消えない。魂の抜けたような顔でただ、突っ立っている。
「なんで・・・消えない?」
呟くと父親がこちらに頬笑みながら歩み寄ってきた。
「・・・?」
今までこんなことは無かった。予想外のことに混乱は増す。父親の顔を見ると笑顔の父親は口を開いた。
「もう・・・行こうか。」
電球は静かに光を失った。
あとがき
※以下、ネタバレを含みます。。閲覧にご注意ください。※穴抜けはドラッグ反転
この作品のテーマは『生死』です。これだけ言えば、だいたい分かると思います。それと、要点だけ箇条書きで書いていきます。
・出てくる登場人物は主人公と父親以外は実体ではありません。
・幽霊ではありません。
・正確には 部屋 ではありません。
こんなところでしょうか。
色々裏設定もあるのですが、全部書くとつまらないので割愛します。というか、そういった設定に関しては想像にお任せすることがほとんどです。